これまでの映画、テレビの左膳役とくらべ、緒形拳がどんな左膳になるか興味があったが、ここでは明るいヒューマニスト左膳に仕立てられているようだ。スゴ味には欠けるが、それが緒形ならではの味なのだろう。物語は、日光東照宮の修復を下命された柳生対馬守（高松英郎）がその資金に窮したあげく、家宝の〝こけザルのツボ〟に、百万両の隠し場所が秘められていることを知る。が、このツボは弟源三郎（倉丘伸太郎）が、江戸の司馬十方斎の娘萩乃（京春上）のもとへムコ入りする引き出ものに持たせて旅立たせたあと。このツボをめぐって、柳生家、義賊霧の弥三郎（天知茂）、女義賊櫛巻お藤（朝丘雪路）、司馬道場を乗っ取ろうとする一派（武藤英司）一派、それに左膳（緒形）が加わり、はじめから、にぎやかな争奪戦を展開する。緒形は、師匠の辰巳柳太郎の左膳にあこがれていたそうだが、殺陣、演技に新しいものを出そうと、かなり懸命。原作（林不忘）にない霧の弥三郎という義賊を書き加えた（脚本・押川国秋）のは、テレビで二十六回（注：実際には十四回）の長丁場をもたせるためらしいが、この弥三郎が、今後どんな役割を演じるのか興味が持たれる。全体の描き方（演出・佐伯清ほか）では、夜八時の放送を意識しすぎたのか、視聴対象を子供に置いて製作されているようなのが気にかかる。そのせいか、中途はんぱのドタバタが余分なものとして目につく。【以上、読売新聞1970/04/05付「試写室」より引用（署名：Ｔ）】各回のサブタイトルは以下のとおり。第１回「ナゾナゾナーニの巻」（1970/04/05放送）、第２回「とんとんトンガリ長屋の巻」（1970/04/12放送）、第３回「いがいがイガ侍の巻」（1970/04/19放送）、第４回「ちょんちょんちょび安の巻」（1970/04/26放送）、第５回「コンコン狐と狸の巻」（1970/05/03放送）、第６回「たんたん丹下危機の巻」（1970/05/10放送）、第７回「まるまる丸坊主の巻」（1970/05/17放送）、第８回「どんどん土左衛門の巻」（1970/05/24放送）、第９回「かまかまカマキリ剣法の巻」（1970/05/31放送）、第10回「スタコラ逃げるが勝ちの巻」（1970/06/07放送）、第11回「てんてん天下の大将軍の巻」（1970/06/14放送）、第12回「これこれ女左膳の巻」（1970/06/21放送）、第13回「ばてれん長崎の巻」（1970/06/28放送）、最終回（第14回）「おどみゃ島原の巻」（1970/07/05放送）。一部資料ではCX放送と記載されている。提供：日本電気、新日本電気、サッポロビールほか。【役名（演技者）】丹下左膳（緒形拳）、櫛巻お藤（朝丘雪路）、ちょび安（雷門ケン坊）、蒲生泰軒（多々良純）、萩乃（京春上）、柳生源三郎（倉丘伸太郎）、霧の弥三郎（天知茂）、柳生対馬守［一部資料では柳生但馬守とあるが放送開始日の新聞広告に「柳生対馬守」と記載されている］（高松英郎）、将軍吉宗（中山仁）、大岡越前守（中村竹弥）。