本作に声の出演をした市川左団次は語る。「昨今のテレビ放送のさかんなことは、おどろくばかりですが、あたしは、どうも、テレビというのは苦手ですね。第一、セリフを完全におぼえなければならないし、それに何秒という時間に追われるのがいやで、うまいものができるわけがないと思っています。それも演説みたいに一人でやるのならともかく、大勢の人と一緒に、長すぎるの、短すぎるのと、伸びちぢみを気にしてつとめるのがおっくうで、いつも思うのですが、テレビ・ドラマへ出るのは、命をちぢめる算段をしているようなものです。せんだってNTVの『どろん』という劇に菊五郎劇団がユニット出演をしたので、あたしも出ることになり、窮余の一策で、勝海舟の声だけの出演をしました。声はすれども姿はみえずというやつで、それもさきに録音をとったので、これなら命のサタになりっこありません。テレビへ出るならこれに限ります。【この項、朝日新聞1959/04/02付「携帯マイク」より引用】」提供：ヤシカカメラ。【参考文献：「東京五局放送　テレビ・ドラマの記録」（「季刊テレビ研究１」（1959/07/25発行、編集人：森谷巌、みすゞ書房刊）掲載）】