長男を戦争で失った家庭のひとりっ子である次男が、元従軍記者の父親のすすめで、防衛大を受けて合格したが、進学すべきかどうかで悩み、母親の反対とバスガールの少女に励まされて入学を取りやめ、働きながら学ぶ生き方を選ぶ。「芸術祭参加作品として企画・制作された。防衛大学校進学を前にした青年と家族の苦悩を描いたものだが、放送の是非をめぐって社内外で紛糾、番組審議会の答申を受け、経営会議で放送中止を決定した。【この項、「RKB放送史事典－RKB毎日放送50年記念－」（2001年、RKB毎日放送刊）より引用】」「反自衛隊をテーマにしたドラマ。圧力がかかり、放映中止になったといわれる。放送されなかったにもかかわらず、「第１回ラジオ・テレビ記者会賞」で特別賞を授賞された。また、民放労連により、全国でスライドによる上映が行われ、後に映画化された。【文・タク】」「『ひとりっ子』は、報道関係者には披露されたが、スポンサー、局側の事情で放送されていないという点で賞の対象になるかどうかが討議された。しかし政治問題をわざと避けて通るような傾向の多い最近の放送界で、日本人の戦争観をいろいろと提出し、進学という日常的な問題の中でうまくドラマ化した企画の積極的姿勢と、作品としてのすぐれたできばえが高く評価された。【この項、読売新聞1963/02/01付より引用】」当初放送予定では、1962/11/25放送予定だった。一部資料では「監督・家城巳代治」と記載されているが誤りと思われる。「関西芸術座により舞台化され、1963年11月から1964年4月にかけて関東以西の各地で上演された。また、1969年5月には独立プロ「新星映画社」製作、家城巳代治監督作品「ひとりっ子」が上映された。【この項、文・アイリス】」演出の久野浩平は放送中止になった当時、記している。「こんなことを云うと、甘いと叱られそうですが、僕はこれまで「戦争反対」に反対する人たちだって本当は戦争の罪悪性について知っていて、しかも分っているけどやめられない何かの理由で、日本を武装したり、戦争したがっているようなふりをしているのだろうと何となくタカをくくっていたような気がします。今度の問題で一番慄然したのは実にこの点でした。戦争をしたくてたまらない人たちが、この日本に現実に存在する、あれ程残酷な戦争を経験しながら、戦争が強盗や殺人よりもはるかに重い犯罪だということを分らない人がいる、そういうことでした。新聞、雑誌に発表された事件の推移どおり、このドラマの内容に、防衛庁も東芝もある時期までは何らクレームを出しませんでした。ある日、ある力が動いて問題を悪くしたのです。公式論的な云い方をすれば、その力も、軍隊、大資本もつまりは同じ階級、同じ側に属すのだからこんな結果を招くのは当然と云えるかも知れません。でも、ある時期までは、防衛庁も東芝も、少くとも折衝した人たちは「戦争反対」が禁止される主題だとは、夢にも思わなかったことは事実なのです。問題が起って、僕は、日本の国家構成の奥院、最も醜悪で非人道的な部分が恐ろしい力を持っていることを知りました。この人たちは「戦争反対」を禁忌としている、「戦争放棄」を人類の理想ではないと思っている。屍が山河を埋める日が一日も早いことを請い願っている、僕はまさに慄然としました。以上は「黒い霧」と初めて対決した僕の実感です。『ひとりっ子』の放送は実際のところなかなか困難かも知れません。勿論、僕たちスタッフは放送の実現を要求し続けます。でも、僕の実感は、放送が実現した後にも、恐らく一生忘れることがないでしょうし、僕はその実感に基いて無邪気に企画製作を続けるつもりです。【この項、文：久野浩平氏（「テレビドラマ」（雑誌、ソノレコード刊）1963年１月号より引用）】」【役名（演技者）】長沼とみ（望月優子）、長沼大介（加藤嘉）、長沼新二（山本圭）、長沼京子（佐藤オリエ）、京子の祖父（中村公治）、白井（杉本孝次）、中島（菅貫太郎）、元吉（斉田明）、謙三（今福正雄）、辰也（下川辰平）、松（北川湛子）、上田教師（江藤茂利）、秋本（明石良）。【データ協力：のよりん（野口義晃）】【参考資料：雑誌「テレビドラマ」（ソノレコード刊）1963年１月号】