中原中也の詩「汚れちまった悲しみに」をモチーフに、浅川マキの歌「赤い橋」をイントロにしたこのドラマは、消しがたい過去、青春の深い傷をなめ合う男と女の、激しくかつ哀切な道行きを描く。和泉聖治の脚本、杉田成道の演出は、非現実的な物語を鮮烈な映像で展開、緊密な劇的リアリティーをつくり出している。横浜のドヤ街の浮浪労働者・真二（永島敏行）と山の手の若夫人・紀子（原田美枝子）は、中学生の浮浪者襲撃事件がきっかけで顔を合わせる。むかし越後の郷里で、真二と紀子は愛し合う高校生同士だった。それが13年前、紀子の家が全焼、紀子の義父が死に、真二は放火殺人の容疑で追われた。やがて真二は、北陸トンネルでの列車火災で行方不明となった。…家が焼けた夜に、紀子には真二に対し、ぬぐい難い負い目を負う「何か」があったのだ。再燃する二人の愛。警察に追われる真二は、強引に紀子を道連れにして逃げる。永島と原田が好演、夫役の寺田農もいい味を見せる。一年前の製作で、その後水死したたこ八郎が顔を出している。【以上、「朝日新聞」東京本社版1986/03/14付「試写室」より引用（署名・木）】」