旦那（パパイヤ鈴木）はリストラされて半年近く、息子は引きこもりで娘も自分の事しか気にかけないという中、ホームヘルパーをしながら必死で家族を養っている妻・和代（岸本加世子）の唯一の憩いは一匹の愛犬。本来はペットを飼ってはいけないアパート住まいの為、同じ棟の主婦には会う度に嫌みを言われる始末だった。ある日ヘルパー仲間の男（渡辺いっけい）に相場より遥かに安く一軒家が手に入るという話を持ちかけられて子供の頃からの夢と家族の再生を信じて貯金や保険を解約し必要経費を捻出、様々なトラブルに遭いながらも何とかその家を手にする事ができた。しかしその家には夫が愛人と共に出て行き、一人息子の帰宅を待つ女・昭子（室井　滋）が光熱費などを支払わずに居座っていて、和代の「出ていって欲しい」という言葉に耳を貸そうともしない。役所や警察に頼んでも法律で昭子の居住権が認められたり、「追い出す」にも多額の手数料がかかると聞いて頼りにできない。それどころか嫌がらせのように塀にペンキを塗りたくる昭子を目の前にして和代は玄関まで彼女を追って揉み合いになり逆に不法侵入や器物破損の罪で警察に連行されてしまう。焦る和代は昭子の息子を探し出し昭子の説得を願うが拒否され傷心のまま帰宅、家のドアを開けた瞬間、最近構ってやれずにいた愛犬が飛び出して行き和代が追いかけると、犬は彼女の前でバイクに轢かれて即死。彼女の怒りと悲しみは限界に達する…追い詰められた和代は早朝昭子の家に忍び込むと、それを待ち構えていた昭子と対面。激昂した昭子は居間に灯油をばら撒き火を点けようとする。そして和代は足元につかみ合いになった時に散らばった食器類の中に光る包丁を見つけたのだった…コメディタッチのタイトルとは違い一人の主婦の希望が打ち砕かれ追い詰められていく展開は息苦しくなるほどで、見終わった後の疲労感がただものではなかった。脚本は江頭美智留。実は裏番組の「レガッタ」の担当でもあるのだが、今作は単なる２サスではなく、人間のもがき苦しむ姿がよく出ていたと思う。役者では室井のイッちゃった感じが印象的で、その怪演は分かり易いが岸本の懐の深さも挙げておこう。演出の黒沢直輔のベテラン仕事にも注目。【以上、文・Gershwin Melody】提供・ホーユー、リンナイ、NTTドコモグループ、小林製薬、TOTO、クレハ、ヤクルト本社、大日本除虫菊。