東京都内のビルから、妊娠中の加瀬冬美子（青木麻由子）という若い女性が墜落死した。定年が一月半後に迫った五反田警察署の警部補・青野由吉（緒形拳）は、殺人ではないかと疑う。実は由吉の妻・綾子（永島瑛子）は長年にわたり万引きしていたが、事実を知った由吉に厳しく問いつめられた末、「私、翔べるの」と言い残して飛び降り自殺していた。以来そのことは由吉に重くのしかかっていた。また、由吉自身も子どものころ鳥のように翔べると信じて、高い木から空に飛びだした過去があった。やがて捜査線上に駆け出しの指揮者・竜頭　亮（高橋克典）という男が浮上する。冬美子の死に触発された過去の飛翔の記憶が交錯するなか、捜査本部の方針に反して、妻を追及したときと同じように執拗に亮を追う由吉。そんな時、亮の姉・和代（石田えり）に出会う。零細企業の社長の愛人として生きている和代にとっては、亮の成功が不本意な現実から「翔ぶ」ことを可能にする唯一の希望だった。「翔ぶ」をキーワードに、閉塞状況から脱出しようとあがく人間を乾いたタッチでイメージ豊かに描いた佳作。【以上、文・練馬大根役者】「どん底の生活の中から一流の指揮者になろうとする竜頭、彼の才能と一緒に翔ぶことを夢見る女、冬海子、一流の家庭に育ちながら、才能の無いことを嘆き、やはり竜頭の才能にすがる女崇子、幼い頃から竜頭の才能を開花することだけを願って自分を犠牲にしてきた竜頭の姉和代。竜頭の殺人を見つけてしまい、竜頭の将来、才能に嫉妬しながらも恐喝する男、そしてなにより自分に本当に才能があるのか、たくさんの重しを乗せながら本当に翔ぶことができるのか、悩む竜頭。才能に対する嫉妬と、それに便乗しようする人々が交錯することで発生する悲劇。必要に竜頭に迫る退官まえの老刑事。見事な構成でした。演出も見事で、浅野忠信と、高橋克典が廃工場で話をするシーンでは、鏡に映る浅野忠信が、鉄くずを鏡に投げ半分割れた向こうに高橋克典が見え、半分の鏡の部分が浅野忠信という象徴的な演出。役者も緒方拳も、石田えりもベテランの味を出してすごくいい。【この項、文・kozo】」1998年度文化庁芸術祭参加。ギャラクシー月間賞受賞作品。刑事捜査指導・杢尾　　堯。各話サブタイトルは以下の通り。第1話「疑惑」、第2話「逃走」、第3話「罠」、第4話「敵」、最終話「飛翔」。