「進学ブームにつけ込み裏口入学の周旋詐欺でかせぐペテン師夫婦（有島一郎、左幸子）がむさ苦しい間借りの二階から出勤？　亭主は有名私大の有力教授になりすまし、大学の廊下を歩いてみせる。女房は受験生の父兄をつかまえてこのニセ教授に紹介し、大金まき上げの筋書が進む…。この亭主役には、教授でも乞食でも演じきれる有ちゃんをおいては人がない。二つのキャラクターを楽々と、のびのびと演じ分けたドラマの終り、詐欺師の足を洗って宿を引き払う夫婦に家主（沢村いき雄）が問う、「あんたたち、何の商売をしてたんだね？」。有島亭主は、例の、ホロ苦さのただよう微笑をひきつらせて答える、「うん、その、ちょっと、教育関係よ」絶妙の幕切れ、と唸ったのが昨日のことのようだ。哀歓こもごも――日本の小市民はこの境地が好きだ。哀歓は出過ぎずこもり過ぎず、緻密だが平明な芸がいい。有ちゃんはその至芸の主だ。【この項、文：はがやすし（雑誌「かくしん」（民社党刊）1983年２月号より引用）】」【データ協力：橋本英樹】