演出の辻真先は後年語っている。「はじめて１時間の単発ドラマ『若い芽』を演出したときは、カメラマンに泣かれた。「俺、テストを受けてるみたいだ」はじめての長時間ドラマだというので、やたら技巧を奔したらしい。タイトルバックからして下町の子供たちの野球場面で、バッターが塁に進んでからっぽになった画面に塀がのこり、そこにスタッフのタイトルが落書きされている、といった趣向を積み重ねた。なんのことはない、イギリス映画「乱闘街」のいただきだ。ソール・バス（「ウエストサイド物語」や「黄金の腕」のタイトルをデザインした人だ）も似たアイデアでやっているが、ぼくの方が早かったかな？カメラを主役の太田雅之さんの車に乗せみんなで押してレールなしで移動シーンを撮ったり、音楽を一切やめて音響効果だけで聞かせたり、あれこれ工夫を凝らしたものの、木を見て森を見ないぼくの悪癖で、かえってドラマ（アマチュアの作品だった）の感動を昇華し損ねた感が深い。直接の上司からは「子供の扱いがうまい」と褒められたが、ぼくの中身がまだ子供で（いまでもそんな気がする）、しかもわざと生放送で番組を作ったから、どんな悪ガキでも全力投球した、それだけのことなのだ。それに主演は『ふしぎな少年』で長らくつきあった太田・ジュディの美少年美少女コンビであり、その点でも気心が知れていた。このときタイトル原稿でジュディさんの名を落としたミスは、いまだに申し訳なく思っている。【この項、辻真先著「テレビ疾風怒濤」（1995年、徳間書店刊）より引用】」【役名（演技者）】清一（太田博之）、卓三（磯野秋雄）、信恵（ジュディ・オング）、豊井（目方誠）、校長（志水辰三郎）、土屋先生（三島耕）、山本先生（平野之）、女先生（秋月喜久枝）。