主人公は、都内の高校に勤める誠実さだけが取り柄のようなごく平凡な教師。彼の楽しみは、金曜の夜、家族で囲む週に一度の晩餐だ。この日だけは、仕事も時間までに終え、帰路につく。ある金曜の夜、家路を急ぐ次女がオヤジ狩りに遭遇。襲われていた初老の男を救い、家に連れ帰り、手厚く看病する。「あなたたちはすばらしい家族だ」というその男は、一家を食事に招待する。招待された先は、男の所有するクルーザー。男は、ある財閥の会長職を務める財界の大物だった。この男の出会いから、家族の生活は一変する。「能力ある人間を援助したい」と、男は長女の会社独立資金を提供。長男は、音楽プロデューサーを紹介され、バンドデビューする。「私の家族はあなたのおもちゃじゃない」と男に反発する主人公。だが、男に悪意はまったくなく、逆に自分が心悩ませていた生徒を救ってもらう始末。そして家族と男との関係はどんどん深まっていく。妻までが、自分のつくった人形を売る店を持ちたいと言い出すようになり、また300万円のフルートがプレゼントされ、一人、悩んでいた次女も、次第にその状況に慣れてしまう。そしてついに「金曜日の食卓」に集まるものはいなくなる。妻は夫にいう。「みんなあなたに喜んで貰おうと思ってやってたの。我慢するから家族なの」。夫婦は別居、家族はバラバラに。そんなある日、次女が謎の男と出会う。その男は財閥会長の別れた息子だった……。【文・キクチサヨコAさん】