現状に飽き足りない現代人の変身願望を巧みに織り込んだサスペンス。ベストセラー作家にのし上がるまでを、大竹しのぶが濃密に演じている。偶然性を感じさせない、練られた原作とシナリオが、湿度の高い恐怖感を醸し出す。抑えた語り口の刑事役・渡辺いっけいの演技が光る（朝日新聞大阪1996/01/23「試写室」より）。訪問先で他殺死体を発見したことから、祥子（大竹しのぶ）が内証で続けていたアルバイトが、夫に知れる。夫と別居し転がり込んだ先は、かつてマンションの隣りに住んでいたモデルの美香（松田美由紀）が暮らす地主（森本レオ）の離れ。その美香は睡眠薬を飲みすぎ、ショック死する。遺品の中から小説の原稿をみつけた祥子が、自分の作品として雑誌社の新人賞に応募したところ、賞を得てしまう。大竹しのぶの熱演が印象に残る。とくにラストの表情はもはや歌舞伎や能狂言の様式美に肉薄している。