江戸・赤塚村にある松月院の榎の古木は白山権現様が宿り、乳房の病気や乳の出ない母親などに効能があると大勢の信者を参り、「乳房の榎」と称されていた。…高田村にある南蔵院の本堂の天井に竜の絵を描く依頼を受けた絵師・菱川重信（中山昭二）は、檀家総代で依頼主である萬屋新兵衛（石浜裕次郎）から、半月も柳島にある自宅を空けているので、一度帰宅してはどうかと進言されるが、弟子の磯貝浪江（入川保則）がいるので安心だと言う。しかし、浪江はその隙に、重信の妻・きせ（馬淵晴子）と深い関係に陥っていた。その様子は、重信の赤ん坊・真与太郎の世話をする女中のお花（川島育恵）も目撃している。南蔵院に絵の具を運んだ竹六（小瀬朗）から、重信は来月の末まで帰宅しないと知らされたため、浪江は屋敷に泊まり込み、重信を亡き者にしてしまおうと策略する。浪江は自分を慕う重信の従僕・正介（美川陽一郎）と叔父甥の契りを交わした後、無理やり重信を殺す手伝いを引き受けさせる。ある夜、正介の誘いで蛍狩りに出かけた重信は、襲って来た浪江に斬り殺されてしまう。正介は南蔵院に戻り、重信が殺されたことを告げるが、重信は本堂で仕事を続けていると聞かされる。正介が本堂を覗き見ると、中には血だらけの重信の霊がいて、腰を抜かすことに。その後、浪江は計画通り、きせと結婚するが、その頃からきせの乳が出なくなる。そのため泣き続ける真与太郎が煩わしくなった浪江は、正介に真与太郎を十二社の滝壺に投げ込むように指図する。しかし、滝壺で重信の霊に遭遇して改心した正介は、松月院の門番となり、「乳房の榎」の樹液を乳代わりに真与太郎を育てることにする。乳房が痛み苦しむきせを置いて、浪江は今では座敷勤めをしているお花に言い寄っていた。その頃、行庵（山田禅二）の依頼で「乳房の榎」の樹液を松月院へ取りに行った竹六は、正介から真相を聞かされる。戻った竹六は、きせに「乳房の榎」を飲ませようとして浪江に斬り殺されるが、そこに重信の霊が現われる。驚いた浪江は、重信に見えたきせを誤って斬り捨ててしまう。そして倒れた行灯の火が蚊帳や障子に燃え移り、錯乱した浪江を包み込む…。正介の家を血を流したきせが訪ねて来て、真与太郎を抱かせてほしいと言う。きせの怪我を気遣う正介だったが、きせは姿を消し、真与太郎の周りに鬼火が舞っているのを目撃するのだった…。【以上、文：市村】【演技者…役名】「入川保則…磯貝浪江（菱川重信の弟子。武家出身）、馬淵晴子…きせ（菱川重信の妻）、美川陽一郎…正介（菱川重信の従僕）、石浜裕次郎…萬屋新兵衛（南蔵院の檀家総代。菱川重信の依頼人）、永井柳太郎…雲海（南蔵院の住職）、高杉哲平…随連（南蔵院の僧侶）、山田禅二…行庵（きせを往診する医師）、川島育恵…お花（菱川家の女中。後に解雇されてお座敷勤めに）、小瀬朗…竹六（菱川家出入りの地金売りの行商人）、小林正…〔サクゾウ〕（南蔵院の新しい寺男）、中山昭二…菱川重信（絵師。武家出身）。【この項、文：市村】」【データ協力：市村】