東北放送開局20周年記念で制作された東北放送初のテレビドラマ。「テレビドラマの制作は、東北放送の長年の懸案であった。テレビ開局以来、バラエティーショー、歌謡番組、民謡番組、スポーツ中継、幼児番組、ドキュメンタリー、海外取材番組など多岐にわたって自社制作番組が放送されてきたが、テレビドラマに関しては制作の意図をもちながらも、莫大な制作費に加えて、スタジオ設備や出演者の確保など制作上の様々な制約により、企画立案するところまでは至らなかった。1976年11月には、東京放送テレビ本部制作室の大山勝美プロデューサー（当時）を招いてテレビドラマの研修会を開催、テレビドラマの自社制作へ向けて漸く一つのステップを踏み出した。以来およそ２年、テレビ開局二十周年を迎える79年の年明け早々、制作現場ではテレビドラマの制作を目標に体制を組み、実施への本格的な始動を開始した。同年２月28日、テレビ開局二十周年記念事業の一つとして、テレビドラマの制作が正式に役員会で承認されるにいたり、制作にあたるプロデューサー、ディレクター、技術が北海道放送で、照明、音声、美術が中部日本放送でそれぞれ制作研修を行った。このスタッフの研修に続いて、３月に入りドラマのテーマについて検討、３月中旬にはシナリオライターの人選を進め、４月20日、東芝日曜劇場の『ダンプかあちゃん』など多くの脚本で知られている稲葉明子に脚本が依頼された。そして７月31日、テレビドラマ『帰郷』の第一稿が完成した。これと並行して、キャスティングの準備とロケーション候補地選定などが進められていった。このドラマ『帰郷』は、地域開発が進むなかで失われていく人情とふるさとの姿を、一人の老人を通して見つめようとした内容で、この年の９月19日から21日まで、仙台近郊の農家の庭先や住宅地の中に取り残された田んぼの稲刈り、仙台駅前のシーンなどを収録、10月10日から13日までは、放送会館第一スタジオのセットと宮城県川崎町の嵯々温泉ロケなどで制作が進められた。主演の加藤嘉、前田昌明ら出演者は、クランク・アップ後「東北放送の初のテレビドラマに出演することができとても光栄です。でもこれが一作目とはとても信じられないくらい、皆さんの息がぴったり合っていましたね」と口を揃えて感想を述べ、スタッフを大いに勇気づけた。ところで、初のテレビドラマ制作とあってすべてが初体験の連続であった。とくに、走る自動車内の会話、車の移動シーン、一発勝負の列車の発車シーンの収録などは、技術面でも可成りの苦労が伴った。また、ドラマの半分以上が野外ロケのため、天候や季節の変化の早さが頭痛のタネであったが、初めてのドラマを立派に仕上げようというスタッフの熱意と、出演者を含めたチームワークの良さで乗り切り、予定通り無事クランク・アップに漕ぎつけた。こうして、記念すべきテレビドラマの第一作は、1979年11月27日（火）午後10時から放送されたが、放送が終わると直ちに視聴者から〝素晴しいドラマだった〟〝ローカルでも頑張ればよい作品が出来るんですね〟〝娘が涙を流しながらみていました〟などなど、賞讃の電話が相次ぎ、大きな反響を呼んだ。業務局調査資料部が放送翌日に仙台市と泉市を対象に行なった電話調査（有効サンプル数400）によると、このドラマの放送時間におけるセッツ・イン・ユースは50.3％、ドラマ『帰郷』を視ていた人19.2％（この時間の通常の平均視聴率は9.7％）にも達し、東北放送テレビの占拠率は実に37.9％と他局を圧倒したことがわかった。またこのドラマを視ていた人の49％が〝とても素晴しかった〟22％の人が〝よかった〟と回答しており、極めて高い評価を得ることができた。【この項、「東北放送三十年史」（1982/05/01、東北放送業務局調査部編集、東北放送刊）より引用】」【参考文献：「東北放送三十年史」（1982/05/01、東北放送業務局調査部編集、東北放送刊）】