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俺は、カメラが商売でね
随分フィルム使って、よく撮ったよ
手あたり次第撮ったといってもいい。いっつもこう、カメラ三台ほど肩から提げてね

光線がいいと撮り、人間が面白くて撮り、角度がいいといっちゃあ撮り、犬も撮り猫も撮り、ビルも撮りゃあ、車も撮り、酔っぱらいも撮り、ヤクザも撮り、頼まれてモデルも撮り、なにを見てもあんた、この角度で、この絞りで、このレンズで行きゃあ、いけるなんてことばかり頭にある

物を見ても人を見ても、光線とレンズと角度なんてことが、すぐ頭をかけ巡る。こう撮りゃあ、絵になると思う。面白い、と思う。受ける、と思う

朝から晩まで、あっちへ行っちゃあ撮り、こっち行っちゃあ撮り、次々といろんなものに向き合っちゃあ、撮りまくる

フッと−気がつく

物でも人でも−じっくり見たことがない

人でも物でも、本当には見ていない

そういうことが続くと、どうなるか分かるかい?

胸ン中、からっぽになるのさ

魂がうつろになるんだ

なにかを、心から好きになるなんて事もなくなっちまう

 

『早春スケッチブック』(山田太一・脚本)第2回より


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